『博士の愛した数式』2006年01月22日 08時42分

(パンフレット p10, 11)

 昨日から公開が始まった『博士の愛した数式』を見てきた。
私の好みの低周波・長周期の映画で、よく波長が合った。

 家政婦役の深津絵里が博士の質問に答える時の表情が良いと思った。
「君の靴のサイズはいくつかね?」
「君には息子がいるのかね?」
何度同じことを聞かれても、博士への敬愛の念、母親のような慈愛、少女のようなはにかみを含んだ表情で、うれしそうに答える。作られたやさしさではなく、心からのやさしさが感じられて心地よかった。浅丘ルリ子の存在感も、映画全体に適度な緊張感をもたらし、緩くなりがちな全体を良く引き締めていて良かったと思った。パンフレットの中で博士役の寺尾聰が「本当の主演俳優というものは、ほかの出演者が主演に見えるように演じるという俳優だ」という黒澤明監督の言葉について語っているが、まさに寺尾さんはそのように演じ、小泉尭史監督はそのように撮ることができていたのではないだろうか。どの俳優も出過ぎていないバランスの良さが、良い後味を残してくれているように思う。吉岡さんも良かった。吉岡さんは心に暗い陰のある役を演じることが多いが、博士と明るくやさしい母親の下でまっすぐに育ったルート先生を好演していたと思う。
 何年か前に岩波ホールで韓国映画の「おばあちゃんの家」を見た時に、本当に何でもない何気ないしぐさに涙ぐんでしまい、どうしてこんな所で涙が出るのだろうと思ったが、この「博士の愛した数式」もそんな、何でもない所に涙を誘われる、とても暖かい映画だった。

 深津絵里さんが演じるやさしい家政婦さんに、旧約聖書の「ルツ記」に登場するルツを思った。後のダビデ王の曾祖母にあたるルツは、義母ナオミへの献身的な愛を示したことで、神により大きな祝福を与えられた女性だ。

☆ルツは(義母ナオミに)言った。「あなたを捨て、あなたから別れて帰るように、私にしむけないでください。あなたの行かれる所へ私も行き、あなたの住まれる所に私も住みます。あなたの民は私の民、あなたの神は私の神です。」(ルツ記 第1章16節)