ヘッセ『車輪の下』2011年09月13日 19時16分

 映画『日輪の遺産』でヘッセの『車輪の下』の文庫本が登場しました。野口先生が久枝に貸し、それをまたスーちゃんに又貸しした本です。どんな小説なのか、未読で気になったので、新潮文庫を買って読んでみました。

 解説によれば、『車輪の下』はヘッセの自伝的な小説だそうです。主人公のハンスは将来を嘱望された有能な少年で、優秀な成績で神学校に入学しましたが、一年たたないうちに勉学意欲を完全に失い、退学同然の休学扱いとなって故郷に戻ることになりました。ヘッセもほとんど同様だったそうです。

 年譜によると、ヘッセが生まれたのが1877年、神学校に入学したのが1891年、そして『車輪の下』が発表されたのが1906年ですね。この19世紀後半から20世紀の初めに掛けては、科学・技術が猛烈な勢いで進歩していた時期です。ノーベル、レントゲン、マクスウェル、マッハ、キュリー、ダーウィンらが活躍したのが19世紀の後半、そして20世紀に入って、プランク、アインシュタインらが活躍を始めました。

 そのような時代にあって聖書も、まるで理系の研究対象であるかのように解剖され、バラバラに解体されました。聖書は神の霊が息づく霊的な書物ですから、死体の臓器や機械部品のようになってしまった聖書の断片を詳しく調べても、神の霊のことが分かるはずもありません。詩人になりたかったというヘッセが神学校で死体や機械のパーツの勉強をしても意欲が持てなかったのは当然のことでしょう。

 『車輪の下』ではハンスがマルコ6章でイエスを感じる場面が出て来ますが、そこまでが限界だったようです。福音書全体から、生けるイエスの霊を感じることができるようになると、こんなに素晴らしい恵みはないのですが、バラバラに分解されたパーツでは、無理ですね。聖書を学ぶには最悪の時代にヘッセが神学校に入学したのは、気の毒なことでした。

 それにしても野口先生は、一体どうして久枝にこの本を貸したのでしょうね…?