賀川豊彦『死線を越えて』を読んで ― 2010年01月20日 18時59分
大正時代の大ベストセラー小説『死線を越えて』の復刻版が昨年出版されたとのことで、ずっと気になっていましたが、今週は少し時間がありましたので、昨日と今日とで一気に読みました。
出版年の1920年の日本の人口が今の半分以下なのに、上中下の三巻本の総発行部数が400万部とのことですから、驚異の大ベストセラーです。
この作品は若き日に神戸の貧民窟(スラム街)に身を投じた作者の自伝的小説です。山折哲雄氏がこの復刻版に寄せた推薦文には、
「賀川がスラム街に入ったころ(中略)、貧富の差ははなはだしく、貧民階層の不満が世の中を覆っていた。そのような時代に、スラム街における愛と献身の物語が文字どおり彗星のように登場したのだといっていいだろう。キリスト教のヒューマニズムが多くの人びとの心を惹きつけ、たちまち広い層に浸透していったのである。
その当時の社会状況が今日の日本の姿に重なって映らないであろうか。(後略)」 とあります。
主人公が身を投じたスラム街の住人は、善人もいますが、多くはドスを見せながら金をせびる前科者たちや売春婦たち、それに乞食たちです。このような人たちが狭く汚い場所に密集して住んでいます。
このスラム街は、外の世界と比べると全くヒドイ環境ですが、一歩引いてもう少し広い目で見るとき、実はこのスラム街は私たちが住んでいる外の世界がギュッと濃縮されているだけであって、私たちもここと変わりない汚れた世界に住んでいるのだ、ということに気付きます。
この本を通して、このことに気付いたことは感謝でした。なぜなら、キリスト教で言うところの【罪】に、なぜ人はなかなか気付かないか、ということが分かったからです。
つまり、こういうことです。
キリスト教では、人の罪深さを強調しますが、私たちが住んでいる世界がそもそも罪で汚れていて、私たちは生まれた時からそこに住んでいるので、自分がその罪に染まっていることに気付きにくいのだ、ということです。
ですから教会では、人に「あなたは罪人です」という前に、もっとこの世の罪のことを説くべきであろうと思いました。私もそのように教わっていれば、もっと早くに気付いていたかもしれません。
イエス・キリストは、罪にまみれたこの世から私たちを救い出すために、神であるにもかかわらず、人となってこの世に来てくださいました。
そして『死線を越えて』は、さまざまな経験を経て、次第にイエス・キリストに似た者へと変えられていった者の物語です。
『死線を越えて』は現代においても、ぜひ多くの人々に読んでもらいたい本だと思いました。
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