6.旧約の舞台移動に同期したイエスの旅路2012年06月15日 06時30分


「焼けなかったロゴス ~舞台裏から観たヨハネの福音書」6

 ヨハネの福音書の記者ヨハネは、御子イエスが「ことば」として旧約時代の初めからいたことを示すために、旧約聖書の時代を時間順に福音書本文の背後に巧妙に仕込みました。そして、そのことをチラチラと読者に見せています。その現れの一つが、イエスの旅の経路です。

 ヨハネの福音書のイエスの旅は、東西と南北を行ったり来たりしています。東西の動きはヨルダン川の東側と西側とを何度か行き来し、南北の動きは南のユダヤと北方のサマリヤ・ガリラヤ地方との間を何度か行き来しています。特に南北に関しては4章から7章に掛けて南→北→南→北→南と移動しているので、聖書学者の中には、これはヨハネの福音書の写本のページが誤って入れ替わってしまったためで、オリジナルの福音書は南→北→南の移動だけだったと考える人たちもいるほどです。

 実はイエスのこの複雑な動きは、旧約聖書の舞台の移動と同期しています。イエスが北に移動した時には旧約聖書の北王国のことが、南に移動した時には南王国のことが福音書の背後に描かれています(北王国・南王国はソロモンの王国が南北に分裂して出来た王国です)。

 また、福音書には1章と10章にイエスがヨルダンの向こう岸(東岸)にいたことが記されていますが、背後の舞台はヨルダンの東にあるユーフラテス川沿いのウルとバビロンです。すなわち1章の背後にはウルにいたアブラハムが、10章の背後にはバビロン捕囚の出来事が描かれています。

 上図は、ヨハネの福音書のイエスの旅路と旧約聖書の舞台移動が同期している様子を示しています。次回以降、もう少し詳しく説明して行くことにします。(続く)