なるほどの演出2006年09月26日 11時54分

 佐々部監督が出演した、かわさきFM<岡村洋一のシネマ・ストリート>の火曜の放送を今夜、川崎の自宅で聞いた。月曜の放送は忙しくしていて聞けなかった。実は月曜も火曜も同じ放送を流すと思い込んでいたので、月曜はパスしたのだった。すみません。でも今夜の分だけでも、いろいろいい話が聞けた。
 「出口のない海」で海老蔵さんの眼の力を極力弱くする演出をしたことは以前からいろいろなところで聞いていたのだが、きょうのFMでの話の中で、海軍対潜学校の校長先生役の平泉成さんにも低い抑制した声で話すよう求めたということを知った。台本は「!」だらけで強い口調で話すようになっていたのを、敢えて抑えてもらったのだったと。
 実は私はあのシーンでエキストラとして参加していて、声が余りに小さいことに違和感をおぼえていた。もっと鼓舞するような声で話しても良いのではないかと思っていた。でも出来上がった映画を見て、そして今夜のFMでの監督さんの話を聞いて、映画って全体のバランスを考えながらそうやって一つ一つのシーンの演出をしていくのだなと、全くの素人の私にはすごく勉強になった。
 少し前に書いたが、私は海老蔵さんが特殊兵器への志願の2時間の考慮時間中の便所でボーっとしている顔が妙に気に入っている。もし校長先生が力強い声で話をしていたら便所での海老蔵さんの顔ももっと悲壮感に満ちた顔になり、全編がこわばった調子の映画にならないとバランスが取れないであろう。そのような、こわばった映画は佐々部監督が撮りたいものとは違うだろう。
 永島敏行さんが「天を回らし戦局の逆転を図る。名付けて『回天』。」と力強く言う場面も、校長先生の平泉さんが低い声で話したからこそ引き立ったのだと思う。私はこの場面が人間の愚かしさを最も強く描いている場面だと思っている。人間が天を回らすことなどできるはずもなく、そのようなことを考えること自体が傲慢なことだ。神を畏れぬこの思い上がりが悲劇の始まりだったという、愚かで悲しい場面だと私は受けとめている。

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